息切れの奥で進むもの ― COPDは「肺だけの病気」ではない

階段で息が切れる、咳や痰がずっと続いている。年齢のせいだと思われがちなこうした症状の陰に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)が隠れていることがあります。今回は、COPDの基本と、私が研究で取り組んできた「血管」の話をご紹介します。

COPDとはどんな病気か

COPDは、主に長年の喫煙によって、肺の奥にある細い気管支や、酸素を取り込む肺胞(はいほう)に炎症が続く病気です。気管支の壁が厚くなって痰が増え、肺胞が壊れていく(気腫化)ことで、息を吐き出しにくくなります。

代表的な症状は、慢性的な咳や痰と、体を動かしたときの息切れです。診断には呼吸機能検査(スパイロメトリー)を使い、1秒間に吐き出せる息の割合(1秒率)が70%未満であればCOPDが疑われます。

治療の4本柱

  1. 禁煙:何よりも大切です。一度失われた肺の機能は元に戻りませんが、禁煙すれば低下のスピードを緩やかにできます。何歳からでも遅すぎることはありません。

  2. 薬物療法:気管支を広げる吸入薬が中心です。痰を出しやすくする薬、増悪を繰り返す方には吸入ステロイド薬を組み合わせることもあります。

  3. 運動・栄養療法:COPDの方は呼吸にエネルギーを多く使うため、健康な方の約1.3倍のエネルギーを目安に、たんぱく質や脂質をしっかりとることが勧められます。ウォーキングや軽い筋力トレーニングも大切です。

  4. ワクチン接種:インフルエンザなどのワクチンで、感染による悪化を防ぎます。

「急性増悪」を防ぐことが大切

風邪や肺炎などをきっかけに、息切れ・咳・痰が急に悪くなることを「急性増悪」といいます。増悪で入院するたびに体力が落ち、息切れも一段階ずつ悪くなっていきます。特に冬は感染対策とワクチン接種で、増悪を起こさないことが何より重要です。

研究から見えてきたこと ― COPDと血管

COPDの患者さんが亡くなる原因を調べると、呼吸器の病気そのものより、心筋梗塞などの心血管疾患が多いことが知られています(文献1)。そこで注目されたのが、血管の内側を覆う「血管内皮(ないひ)」という細胞の層です。血管内皮は血管の広がり具合や血液の固まりやすさを調節しており、ここが傷むと動脈硬化が進みます。

傷ついた血管内皮の細胞からは、ごく小さな粒子(微小粒子/マイクロパーティクル、0.1〜1.0μm)が血液中に放出されます。私はこの粒子を、血管内皮の傷み具合を測る「バイオマーカー(病気の状態を示す指標)」として使えないかと考え、宮城県の石巻赤十字病院で、COPDの患者さんの血液を調べる研究を行いました(文献2〜4)。

POINT

・症状が落ち着いていても、体の中では血管の炎症が静かに続いていることがあります。「楽になったから」と自己判断で吸入薬をやめないことが大切です。

・COPDの方は、肺と同時に心臓や血管の状態にも目を向ける必要があります。

ご自宅で療養されているCOPDの方の診療では、呼吸の状態だけでなく、心臓の働き、栄養、体力、そして冬場の感染予防まで含めて見守ることを大切にしています。

参考文献

  1. Anthonisen NR, et al. Ann Intern Med. 2005.

  2. Takahashi T, et al. Thorax. 2012.

  3. Takahashi T, et al. BMJ Open. 2012.

  4. Takahashi T, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2014(総説).

← 院長コラム一覧へ戻る