ご自宅で療養している方の具合が急に悪くなったとき、救急搬送すべきか、それとも家でできることをするべきか。在宅医療に携わる医師が、毎回悩みながら向き合っている問いです。
病院の医療の目的は、病気を治すことです。多くの患者さんのデータ(エビデンス)に基づいた、標準的な治療が中心になります。
一方、私たちが考える在宅医療の目的は、病気と付き合いながら、幸せな生活を送ることです。そして「幸せ」は人によって違います。だからこそ、ゴールはご本人とご家族に合わせて一緒に決めていきます。前回お話しした「個別化医療」は、在宅医療の本質でもあると私は考えています。

ある在宅医療のシンポジウムで紹介されたデータ(※)では、訪問診療を受けている方が肺炎で入院すると、退院時には要介護度が平均で約1.7段階重くなり、約4人に1人が亡くなっていました。入院そのものが、体力や生活の力を大きく奪うことがあるのです。

もちろん、入院が必要な場面はあります。大切なのは「とりあえず病院へ」ではなく、その方にとって何が一番よいかを毎回考えることです。
急変して「このままご自宅で安心して過ごせるか分からない」と感じたとき、私は次の3つを確認します。
ご本人の状態を評価し、必要な検査や治療を考える(在宅でもレントゲン、点滴、薬の処方などは可能です)
ご自宅で見守る体制があるか(ご家族、訪問看護、ケアマネジャー、ヘルパーとの連携)
ご本人とご家族が、どうしたいと望んでいるか
一人暮らしの高齢の方から、「咳が止まらず苦しい、入院したい」と夕方に往診の依頼がありました。進行したがんを抱えている方です。
ご自宅で診察し、ポータブルのレントゲンも撮りました。胸の音には狭くなった気管支の音が聞こえたものの、肺はしっかり広がっており、水分もとれていて、その日も歩いて外出できていました。病院に運んでも入院にはならず、点滴をして帰宅になる可能性が高い状態でした。
そこで、それまで訪問看護の利用をためらっていたご本人と話し合い、了承をいただいたうえで、ケアマネジャーさんと訪問看護ステーションに相談し、その日の夕方から訪問看護に入っていただくことができました。その後は訪問看護と訪問診療の回数を増やしてご自宅での生活を支え、約2か月後、ご本人の希望に沿って緩和ケア病棟へ移られました。
一方で、判断が本当に正しかったのか、今も考え続けている事例もあります。ご自宅での見守りにはどうしても限界があり、「どこまで家で安全を確保できるか」に絶対の正解はありません。だからこそ、一例一例を振り返り、訪問看護師さんたちと勉強会で共有することを大切にしています。
POINT
・幸せな暮らしは医療だけでは実現できません。ケアマネジャー、訪問看護師、介護士、薬剤師との連携が欠かせません。
・「急に具合が悪くなったらどうしたいか」を、元気なうちからご家族や私たちと話しておくことが、いざというときの支えになります。
王子とおる在宅クリニックでは、契約している患者さんに24時間対応しています。急変時の判断に迷ったときも、まずはご連絡ください。一緒に考えます。
※ 医師会主催の在宅医療シンポジウムにおける、医療法人社団悠翔会 佐々木淳先生のご発表より。